記事執筆:ミケ川(みけかわ)
1男(人)2女(猫)の父。
暇があれば携帯で息子と猫たちの写真を撮るのが趣味。
8歳から現在まで常に動物と暮らしており、肉球からペット保険まで動物関連の情報収集がライフワーク。
犬・猫は人間と比べると、はるかに体の成熟が早く、生まれて1年程度で生殖行為・出産が可能です。そのため犬・猫の妊娠、出産に関してはすべての飼い主にとって考えておかなければいけない問題です。
今回は犬・猫の去勢と避妊の必要性とメリット・デメリットについて考えてみました。
1.犬・猫の去勢と避妊手術の目的は変わってきている
そもそも犬・猫の去勢と避妊については何ら法的な拘束はありません。ただし、生まれて1年程度で生殖行為・出産が可能であることから、望まない妊娠で生まれた不幸な子犬、子猫をふやさないためにも推奨されてきました。
一方で、最近では、去勢・避妊手術についての目的に変化が出てきています。望まれない妊娠以外に、将来起きる可能性のある性ホルモンに関する疾患(メスでは乳腺、子宮などの疾患、オスでは前立腺の疾患)の予防、または問題行動の防止を目的として手術をすることが増えています。早期の手術でこれらの発生を予防できるとされています。
問題行動とは発情に伴う行動で、様々な動物でみられる本来では自然な行動です。しかし、犬・猫が人間社会で暮らしていく上では、問題行動と認識されてしまいます。問題行動の例としては、遠吠えやマーキング・スプレー行為、マウンティング、オス犬の狂暴化、脱走などが挙げられます。
去勢・避妊の目的は、望まない妊娠で生まれた不幸な犬・猫をなくすことはもちろんですが、犬・猫の健康や人間社会への適応に目的がシフトしていると言えます。
2.去勢手術と避妊手術を行う時期
手術の時期については、オス、メスで異なりますが、原則生後半年から一年以内です。
メスの場合は初回の発情(ヒート)を迎える前に行うと、乳腺腫瘍発生率を極端に抑えられることもあり、手術は半年~8カ月程度*が目安です。成犬・成猫になる前の麻酔や手術が体に与える負担も大きいため、信頼のおけるよくかかりつけ医を相談しましょう。
*初回の発情は、猫・小型犬・中型犬で半年~8か月、大型犬で8〜12カ月と言われています。
オスについては、犬も猫も発情期はありません。メスの発情に合わせて発情が訪れるため、住環境に発情を迎えるメスがいる場合は早く発情を迎える可能性があります。生殖器官が完成する前の、生後半年前後を目途に手術を行うことが好ましいとされており、生殖能力を手に入れる前であれば、去勢後に周りに発情している個体がいてもストレスを感じることがなく、問題行動も抑制されるとされています。
上記のように、若い方がメスもオスも手術の効果は高く、手術からの回復が良いと言えます。
1)手術の流れ
①事前検査
健康状況を獣医師が確認。一般検診のほか犬・猫の年齢や状態に応じて、血液検査やレントゲン、心エコー検査などの検査を行うこともあります。持病がある場合、高齢の場合、全身麻酔・手術が危険と判断され、中止になることもあります。
②麻酔
オス、メス共に全身麻酔が行われます。
③手術
1〜2時間程度です。
④状態の確認
術後の状況の確認をし、入院退院の判断がなされます。
⑤入院 or 日帰り
感染症を防ぐ意味でも、メスの場合は原則入院。オスの場合日帰りもあり得ますが、エリザベスカラーを装着となるのが一般的です。
2)手術時間の入院日数・費用について
入院日数について
避妊手術は去勢手術よりも大きな手術です。全身麻酔で卵巣または子宮もしくはその両方を摘出する開腹手術となり、手術時間も2時間程度と長く、麻酔が抜けてから1泊程度入院することが一般的です。
オスも全身麻酔で、体格にもよりますが、1から1.5センチほどの切開で睾丸を取り出し1時間程度で手術は終わります。1日入院するケースもありますが、日帰りのケースもよくあります。
費用について
①オスの去勢手術;20,000円~50,000円程度
②メスの避妊手術:30,000円~70,000円程度
オスのほうが、手術費用が安いのは、手術の難易度と関連しています。手術が難しいほうが、手術時間が長くなるので麻酔の量も増えることも関係しています。オス、メスともに金額に幅があるのは、体重・体格によって金額が変わるためです。
動物病院は、自由診療なので病院によって手術費等に差があります。ただし、去勢・避妊手術は一般的な手術のため、各動物病院のホームページに記載があることが多いので、手術前に確認しておきましょう。
また、保護犬や保護猫の場合、地方自治体や獣医師会などから助成がある場合もありますので、市区町村のホームページを確認してみるのが良いでしょう。ペット保険に関しては、予防ですので、原則対象外です。ただし、病気の治療として避妊、去勢が行われた場合はこの限りではありません。個別加入中の保険会社にお問い合わせください。
3.去勢手術と避妊手術のメリット
ここまでの話の中でも手術のメリットについては触れてきましたが、ここでは詳しくご説明します。
1)望まない妊娠、脱走を防げる
望まない妊娠を防げるというのが、基本的なメリットです。犬・猫は2匹以上の出産は普通で、5頭以上の場合も珍しくありません。すべてを飼育することや里親を探すことは多大な労力、資金を必要とします。子犬、子猫が見たいという安易な発想での出産は悲劇でしかありません。また、猫の完全室内飼いの方は、他の個体との接触がないため、あまりメリットと思わないケースも有るようです。
しかし、発情した猫は、例え完全室内飼いであっても飼い主のスキを見つけ脱走することがあり、発見したときにはすでに妊娠していたといったことは珍しい話ではありません。犬の場合は、散歩中に急に走り出すなどして、脱走してしまうこともあります。オスはもちろん妊娠はしませんが、脱走しそのまま迷子になってしまう、交通事故に遭うなど悲しい結末もあり得ます。手術を行っている場合、こうした望まない妊娠、脱走を抑制できます。
2)問題行動を抑制できる
犬・猫で行動に多少の行動差異は有りますが、大きな声で独特の鳴き声で鳴く、吠える、マーキング(猫では壁などへの爪とぎ)をする、スプレー行為などは、室内飼いの場合は、住環境への被害が特に深刻になります。外で飼っていたとしても、騒音、悪臭となり家族以外の周辺住民への迷惑になるでしょう。
またオスの場合は、興奮から闘争行為にもつながり、オス犬・オス猫で喧嘩をすることがあり、ケガをする、ケンカ相手を傷つけることもあります。犬の場合は、第三者への噛みつき行為などにつながることもあり、思わぬ大事故につながることもあり得ます。手術を行っている場合、性ホルモンの分泌が無くなりますので、精神的にも安定し、問題行動の抑制につながります。
3)性ホルモンに関する疾患を予防できる
手術によって防ぐことはできると言われているのは以下のような病気です。
◆メス
【乳腺腫瘍】
性ホルモンとの関係性が注目されており、初期発情前に避妊手術した場合の発生率が0.05%と極端に低く、1回発情後は6~8%、2回目以降は25%くらいの発生率といわれ、手術を行っていないメスでは500頭に1頭が罹患すると言われています。その半数が悪性腫瘍で、特に猫の罹患は、非常に多いとされています。
【子宮蓄膿症】
名前の通り子宮に膿が溜まる疾病です。若年期には少ない疾病ですが、免疫が落ちる高齢期にかかりやすく、特に出産経験のないメスに多く発症する疾病です。一度罹患すると繰り返しやすく、高齢のため完治せず結局、避妊手術をすることになる場合もあります。出産させる予定がない場合、乳腺腫瘍も含め抑制できるため手術を推奨する理由として挙げられます。
◆オス
【精巣腫瘍】
高齢期では、命のリスクも伴う、精巣にできる腫瘍です。完治には摘出しかなく、去勢手術をしていれば原則罹患しません。
【前立腺疾患】
去勢していないオスが高齢期に前立腺に異常を起こすことがあります。特に前立腺肥大は起こりやすくポピュラーな疾患です。大きくなった前立腺が、直腸の圧迫や尿道の狭窄を起こすことによる、排便や排尿困難を引き起こします。前立腺疾患で危険なのは、前立腺腫瘍です。敗血症、破裂がおこることがあり罹患すると20〜50%程度の死亡率があると言われています。
命に関わるような疾患もあり、これらを予防・抑制できるため去勢・避妊手術を行う飼い主が多いのです。
4.去勢手術と避妊手術のデメリット
メリットの大きい去勢・避妊手術ですが、デメリットもあります。
1)手術・麻酔の身体的な負担
若年期に行われることが多いため、手術・麻酔は犬・猫の体には大きな負担になります。1傷口や剃毛した部分がもとに戻るのには、1ヶ月以上はかかります。
また、麻酔の肝臓への副作用や死亡のリスクがあります。麻酔については事前検査で耐性が確認できますが、万全を期し、完璧な手術だったとしても万が一の事故は起こりうるのです。特に高齢になると死亡のリスクは高くなります。
2)性ホルモンに関する疾患を完全に防げるわけではない
手術の年齢が高いほど防げる可能性が低くなります。前述のとおり、初めての発情を迎える前か後かによっても差があります。
3)子孫を残す可能性がなくなる
子宮・卵巣、精巣の摘出手術になりますので、愛犬・愛猫の子孫を残す可能性はなくなります。
4)性格が変わる
本来の性ホルモンの分泌がなくなるため性格が変わることがあります。オスがメスのようなやさしい性格になる、メスがオスのような攻撃性を持つ、活発だった個体がおとなしくなる、臆病になる、と一般的に言われています。
また、発情前に手術した場合、子供っぽさ、幼さが残り続けると言われています。ある程度成熟してからの手術の場合は、性格の変化に飼い主側が戸惑うこともあるようです。
5)太りやすくなる
性ホルモンの分泌が亡くなると、代謝が落ちるため、太りやすくなります。そのため、去勢手術、避妊手術後は、食事管理を徹底する必要があります。肥満による様々な疾病にかからないように注意しましょう。
まとめ
犬・猫の去勢・避妊手術は一般的な手術で、望まない妊娠や問題行動の抑制、疾病の予防など大きなメリットもあり、特に住宅の密集している都市部や集合住宅での飼育においては、周辺への迷惑も含め必須ともいえます。
反面、デメリットも存在し、愛犬、愛猫の体に大きな負担をかけ、出産の可能性を奪うことも事実です。
正解はありませんが、メリットとデメリットを考慮し、愛犬、愛猫の幸せを考え、飼い主として決断が必要ということを認識しておきましょう。
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